源平盛衰記全釈

早川厚一さんが主宰する「源平盛衰記全釈」の連載14回目(「名古屋学院大学論集人文・自然科学篇」55巻2号)の抜刷を頂いたので、『源平盛衰記(一)』(三弥井書店 1991 久保田淳加注)をチェックしました。

早川グループの作業は、研究会方式ではなくMLを通して行われているそうで、大阪府や秋田在住の研究者も参加し、軍記物語研究のみならず漢文学日本史学・仏教文学などからも詳しい考証が加えられています。その代わり進行速度は超蝸牛的で、今回で巻五「澄憲賜血脈」まで、『源平盛衰記(一)』でいえば153~165頁に当たります。連載を認めている大学紀要委員会(?)もなかなか太っ腹です。

早川さんはこの3月で定年を迎え、年度末が忙しかったため、例年なら同時に出す源平闘諍録全注釈は間に合わなかったとのこと。しかし保元物語の注釈や、他の人たちとの共同作業である四部合戦状本平家物語の注釈も併せて、今後も続けていくそうです。今年末刊行予定の軍記物語講座第1巻(花鳥社)には、保元物語研究史を執筆の予定。倦まず弛まず、とは早川さんのためにあるような言葉ですね。

今回の連載では仏教関係の情報が充実しているように感じました。源平盛衰記を初め読み本系平家物語は、多様な分野からの乗り入れが必要な内容を抱え込んでおり、なおかつ軍記物語としての特質を照らし出していく作業は、難渋ではありますが必要でもあって、時間さえ惜しまなければ面白くもあります。