雛祭

正月が過ぎたら節分、バレンタイン、雛祭と、コンビニやスーパーはめまぐるしく商品を入れ替えます。恵方巻とやら、東京人にはなじみのない、俄仕立ての民俗は、もうやめませんか。店頭で方角を探して太巻にかぶりつく、なんてスタイルは、そもそもださい。食品ロスの試算額¥10億、などと聞かされると、お天道様に申し訳ない、という気持ちにせっつかれます。

今年も大内雛と、父が手作りした木彫の雛人形を出しました。赤い風呂敷を敷いて、梅花の象眼の丸盆に、日本酒の小瓶(ロゼワインは流行らないようで、最近は入手出来ない)と、3色チョコレート(白・緑・桃のシンボルカラーです)を載せて供えると、どうやら雛祭の室礼らしくなりました。未だ桃の花は店に出ないので、とりあえずピンクと白のスイートピーを活けてあります。

今は成人式の振袖が、女の子として家から大事にされているかどうかの象徴のようですが、私の子供時代は、何と言っても雛人形でした。段飾りなら勿論、お供えの菓子や友達を招くご馳走(ちらし寿司に蛤のお吸い物、が定番)や、その日の晴着に至るまで、母親から娘に注がれる愛情と期待感を示す表徵と受け止められたのです。戦後は住宅事情もあって、都市部では雛を飾る習慣が廃れました。

3月4日を過ぎても人形をしまわずにいると縁遠くなる、という俗信もあり、雛人形は出す時も仕舞う時も大仕事でした。「あかりをつけましょぼんぼりに」で始まる童謡には、「お嫁にいらした姉様によく似た官女の白い顔」という一節があって、古い日本の家制度を感じさせるのですが、もうそんな感触は通じないでしょうね。