後期軍記

必要があって、後期軍記の研究状況をおさらいしています。笹川祥生・松林靖明・梶原正昭さんの著書や古典遺産の会編の事典類、雑誌「国文学」の特集「軍記物語―エポックをおさえる」(2000/6)や「軍記と語り物」の研究展望・研究文献目録など。後期軍記は、室町軍記と戦国軍記とに一旦分け、その上で特色と変遷を考えた方がいいらしい。

これまで後期軍記は、数が多いだけでなく異本のあり方が独特で、平家物語などを主に扱ってきた経験では手に負えない、と敬遠してきました。じっさい、伝本だけでなく文書類や郷土資料も視野に入れ、舞台となった地域のフィールドワークも必要です。

この分野の研究史をたどると、改めて梶原正昭さんの偉大さを感じます。私が未だ卒論を書いていた頃、軍記物談話会(軍記・語り物研究会の前身)で、軍記物語の範囲の広さを説き、群書類従合戦部に入っている本文だけでも100やそこらでは収まらない、と言って、当時の会員たちを驚かせていました。あの当時、独力で厖大な調査をなさっていたのです。人間的にも公平で、学閥や自己愛に囚われない、真に学問好きの雰囲気を身にまとった方でした。『鹿の谷事件』『頼政挙兵』(1997~98 武蔵野書院。高校・大学教員の方にもお奨め)は講義録をもとに書き下ろされたようで、この続きを出したい、とつよく思いましたが、なかなか叶うことではありませんでした。亡くなってから20年、定年後たった半年で亡くなられたのです。

笹川祥生さんは関西でずっと戦国軍記を研究してこられ、梶原さんの弟子で室町軍記を研究してきた松林さんと共に、後期軍記研究の基礎的環境が現在のように整備される原動力となりました。しばしば梶原さんとは異なる視点が、新鮮でもあり、有益です。

現在は戦国時代ブームなのでしょうか、室町軍記の研究者は多くないようです。単なる資料紹介でなく、軍記とは何かを考える、重要な鍵がここにあるのですが。