文学散歩

信濃から上京した友人姉弟に、近所の文学遺跡を御案内すると言ったのはよかったが、地元の近代文学関係の旧跡のことなど何も知りません。泥縄でイラストマップを買い、にわか勉強。地元の者は、あそこでしくじって叱られた、ここでは◯◯が手に入る、といった情報で地誌が形成されているので、明治から昭和くらいの歴史には、とんと疎いのです。

とりあえず赤門から一葉の住居跡法真寺、落第横丁、初めてお寺がマンション経営に乗り出したというので有名になった喜福寺、徳川ゆかりの長泉寺、菊富士ホテル跡を歩き、金魚坂で一服したらもう時間がなくなってしまいました。菊坂を下り、伊勢屋の土蔵の前を通って西片町へ出て、お別れしました。私の怪我のせいで早く歩けなかったり、東大の売店で待たされたりしたこともありましたが、時間不足だけでなく文学遺跡というほどのものは殆ど何も残っていないのです。文学者が集った喫茶店白十字も、大学紛争時代に無くなりました。下宿街にはマンションが林立し、旧家の土地は2~3軒に分割されて建て直しが進みました。古い町がかすかに面影を残しながら変わってゆく、その雰囲気を感じて貰うしかありませんでした。