天南星

植物図鑑でのみ、または文学作品でのみ知っていた植物の実物に出会った時の感動は、忘れがたいものです。ああ、これがあの・・か、としばし佇んで想いを廻らせます。

中学校の塀際に見慣れない草の花が咲くのを3年前に発見、その後気をつけて見てきましたが、今年も咲き始めました。三つ葉で、緑色の靭形の花が蛇の鎌首のように見えます。全体に小ぶりな草ですが、今年は春先の除草が行き届いて、よく見えます。蝮草だと思いこんでいましたが、ネットの画像を見ても葉の形、花の色、草丈、ぴったり一致する種がない。天南星の仲間であることは確実です。牧野植物図鑑は去年売ってしまったし・・・山野草の一種だと思うのですが、それにしてはどうしてこんな所へ?目の前は地下鉄の駅です。誰かが植えたか、捨てたのでしょうか?周辺には自生していません。

半世紀前のお茶の水女子大学構内には、二輪草の群落があって、見つけた時は興奮しました。もう今はないでしょう、綺麗に整備されてしまいましたから。

子供の頃読んだアメリカの小説に、近くの林へ家族ではしばみの実を採りに行く場面が出ていました。房になるらしい、食べられるらしい、どんな植物だろう?―ずっと気になっていたのですが、先日、長野のホテルの売店で「はしばみ」という名のナッツを売っているのを発見。殻つき、櫟(くぬぎ)の団栗みたいな実です。早速買って、産地表記を見たら「アメリカ産ヘーゼルナッツ」とあり、なあんだ、ということになりました。

[追記]:山野草に詳しい友人から、地下鉄駅前に自生しているのは、天南星属ではなく半夏属のカラスビシャクだろう、と教えられました。どちらも里芋科ではあるのですが、下位分類が別。山野草ではなくただの雑草だそうです。区の除草事業が徹底した年にはお目にかかれませんが、塊茎は生き残っているはず。またお会いしましょう。