近世寺社伝資料

『近世寺社伝資料『和州寺社記』・『伽藍開基記』』(和泉書院)が出ました。近世初期に成立した、大和及び畿内諸国の寺社縁起集成2本を翻刻し、解説を付した本です。永く地道な活動を続けて来た神戸説話研究会の活動成果ですが、こういう出入り自由な研究会は、支える若手中堅と共に、核となる「おとな」がいることが重要なのです。名古屋の故島津忠夫さん、そして神戸の池上洵一さんがそうでした。もう若手とは言えないのでしょうが、内田澪子さんや本井牧子さんらが熱心に活動を支えてきたようです。

『和州寺社記』には森田貴之さんの解題があり、縁起集から名所記・地誌へと変貌していく作品であることが分かります。リライトや取り込み・吸収による創作を経て多くの類似作品が流布していくのは、近世文化の特徴でもあります。

『伽藍開基記』には山崎淳さんの解題があって、人物中心の僧伝のかたちを採りながら『元亨釈書』の影響下に、地域ごとの日本仏教史を目指そうとしたのではないかと述べられています。

資料として有益なものですが、願わくは解題中の地名・寺社名・人名など固有名詞に、できる範囲で振り仮名をつけて欲しかったなあ。