創られた証言

日赤東京支部がAIによって生成した資料によって関東大震災100年プロジェクトを企画したが、「新証言」と銘打つことへの疑問が出て中止した、との新聞報道を見て仰天しました。日赤東京支部のHPを開けると、こう書いてあります(下線はmamedlit)。

100年という歳月によって震災当時の記憶も薄れ、描かれた当時の様子も絵画だけでは伝わり難くなってきております。AIという新しい技術のサポートを得ることで、描かれている当時の状況やそこから見出せる教訓等を想像しやすくなるのではないかという想いから、企画いたしました。関東大震災に関心をもっていただき、少しでも防災に備える行動をとっていただくことが、本プロジェクトの一番の目的でした。(中略)このたび、私共の説明が不十分なため、本来の意図が伝わらず一部で誤解を招いてしまい、本プロジェクトを通して伝えたかったことが十分に伝えられない状況であると判断し、実施を見送ることといたしました。」(20230908閲覧)

いやいや、違うだろう!歴史文学を扱う者としては、こういう根本的な勘違い、歴史に関わる危険なはき違えを看過するわけにはいきません。報道によれば100人分の「証言」や人物の画像を、AIによって生成して展示する予定だったという。AIが生成するのは、確率に基づく創作です。しかも本物らしく見えるだけ始末がわるい。戦場写真の中に、後に創作された映画場面が紛れ込んでいて問題になることがよくあります。時間が経てば真偽が見分けにくくなり、ドキュメントとしては邪道です。ところがこれは当初から「創作」しておきながら、下線部を見る限り、当事者にはその認識すら薄いようです。

当時の絵画や記録類を博捜する手間を惜しんだだけなのに、新技術などと誇るな。間違って使う便利な技術ほど怖いものはない。しかも日赤などという信頼ある機関の名で。