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それでも生きていく

渡部泰明さんの『中世和歌史論 様式と方法』(岩波書店)という本が出ました。前著『中世和歌の生成』(若草書房)が藤原俊成中心だったのに比べ、書名通り、古代和歌から中世和歌へ、西行・定家・実朝の作歌方法、そして芸能や連歌への展開をも視野に入れて論じています。鍵語は「縁語的思考」。「あらかじめ言葉の意味・イメージの総和を胸底に秘め、そこから言葉の縁によって自在に引き出す」言葉の使い方を縁語的思考と名づけ、そこに焦点を定めて中世和歌の創作過程を説き明かそうというのです。

重要な素材をあえて表現しないのが定家固有の方法であるとの指摘も、すでに言われていることではありますが、印象に残りました。あとがきにある「和歌はなぜ続いたのか」という問いは、最近の和歌文学界共通の命題なのかもしれませんが、答えは複数語られていいものだと思います。

またあとがきからは、痛切な衝撃、人生の痛手を負ったとき、文学によって「それでも生きていく」という力を与えられた体験がほのめかされ、私個人の体験からもつよく共感できるものでした(このテーマについては、今年1月の東京学芸大学におけるシンポジウムで、すこしお話ししました)。