漆の文化

藤澤保子さんから『新版 図説日本の文化をさぐる うるしの文化』(文・藤澤保子 図/絵・稲川弘明 小峰書店  2003)が送られてきました。藤澤さんは中学の同級生、卒業以来会ったこともなかったのですが、上野公園ですれ違って声を掛けられ、漆工芸作家になっていたことを初めて知り、爾来、賀状のやりとりをしてきました。東京芸大修士課程漆芸専攻を出た後、モダンでありながら伝統美に基づく作品を発表、漆工芸に関する啓蒙活動も続けてきた人です。自宅で漆芸の製作過程や作品を展示しているそうで、公式サイトもあります。urushi.work/

本書は、「うるし」はどんなものか、暮らしの中の漆、漆器はいろいろな材料で作られる、漆を塗る、文様をつける、漆器の産地、漆器の扱い方と手入れ、現代生活の中の漆、漆工芸の歴史、漆工芸の基本用語、という章を立て、文字通り「漆文化のすべて」を解説しています。美しい写真がふんだんに載っていますが、図録を見るような所存で読み始めたら、文章が単なる説明に留まらず、世界の漆文化、また日本の伝統文化と生活用品を振り返るきっかけを提供してくれていて、読み応えがありました。

漆は装飾以前に接着、防腐などの実用目的で利用され、すでに紀元前13世紀頃から世界各地で使われていたそうで、日本では建築、仏像、武具、食器、家具や調度品、文具や遊戯具、装身具などに用いられました。本書には実作者ならではの眼と体験に基づく記述が、思いがけない知識へと導いてくれる箇所が幾つもありました。

子供の頃、籃胎の箱や蒟醤の菓子盆などが我が家にもありましたが、何となくほかの器物とは違う、恐怖感に近い威厳があって漆器は苦手でした。手入れが難しいという印象のせいもあったのでしょうが、その手触りは確かに他の材質には代えがたいものです。