巨大動物

名古屋に勤めていた頃、北海道への出張から帰っての土産話に、トドの缶詰というものがあった、と言ったところ、堅物の教育学の同僚が、さぞ大きいんでしょうねえ、と訊いたので、思わず笑い出してしまいました。丸ごと入ってるわけじゃないんだから、気持ちは分かりますけど、と返事しました。

朝日新聞朝刊に、解剖学者郡司芽久さんの「キリン解体新書」というコラムが連載されています。今朝はこういう話でしたー女性がキリンの解剖なんて大変ですね、とねぎらわれることが多い、キリンの体重は1tを越え、首の重さだけでも100kg、それを軽々と持ち上げて運ぶ筋骨隆々の男性を想像して思わず笑ってしまう。女性なのに大変ですね、には男ならこれくらいできる、が対になっているのでは。生物学的な性差は確かに存在しているが、何かをする上で重要なのはそれぞれの個性の方だろう、フラットな価値観を持っていたい、と。

30年ほど前、長門本平家物語の伝本調査について講演したところ、懇親会で、こういう細かな仕事は女性に向いてますねえ、と話しかける人が複数いて、返答に困りました。その後、別の討論会でも似たような褒め言葉(?)を口にする人たちがいて、見かねた山下宏明さんが、「彼女は論客ですよ」と口を挟んでくれたことがありました。

女はコツコツ、報われない細かな仕事に向いてる、と頭から決めつけてくる人には莫迦らしくて笑ってしまうしかないのですが、恐いのは、女性が似たような固定観念の枠に自ら入ってしまうこと。コツコツ細かな作業は私にしか出来ない、これだけ根気よく詳しい作業をしたのだから絶対正しい、などと思い込まないように。杞憂だったら笑い飛ばして下さい。