葛城

東京は静かな正月です。福茶から始まってお屠蘇から雑煮まで一通り、仏壇とサシで祝いました。年賀状を60枚以上書き足し、ウィーンフィル新年コンサートと辻井伸行ショパンのピアノ協奏曲を聴いて、例年通りの元旦です。

山中玲子さんからは、メールで新年の挨拶が来ました。能「葛城」をイラスト化した添付画像が面白かったので、許諾を得て転載します。(イラスト:杉本千恵美)

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シテ葛城の女神・ワキ山伏

能「葛城」は、雪の山中で行き暮れた山伏が、雪の積もった笠を被った女性から一夜の宿を提供され、柴を焚いてもてなされますが、じつはこの女性は葛城山の神であり、人目を避けて夜しか工事をしなかったため橋を架けるのが遅れ、山伏の元祖である役行者から罰せられている、と語ります。しんしんと積もる山中の雪の匂いまで感じられるような一番です。激しい気性の役行者に申し開きのできなかった女神の苦しみを、及ばずながら、山伏の感謝の祈祷が、和らげることができたでしょうか。

室町期の連歌と能は、当時の古典的素養が詰まっていて、引歌や本説、和歌・物語の面影を輻輳させた面白さが持ち味です。特に能楽は、重々しげに演じられるので、現代では近寄りがたい気がしますが、こういう絵にすると、民話の一場面のようですね。

数年前、奈良絵本の共同研究で招いたゲスト講師(絵画史の専門家だった)から、こういうぽにゃぽにゃ系の絵は扱ったことがないので、と壇上から言われましたが、こんなイラストにしてみると、現代の奈良絵本と言えるかもしれません。