居るのはつらいよ

東畑開人さんの『居るのはつらいよ―ケアとセラピーについての覚書』(医学書院 2019)を読みました。臨床心理学の博士号を取ったものの、セラピーの仕事を望んでなかなか就職口のなかった著者が、沖縄に「好条件」の求人を見つけ、そこで体験した4年間を軽妙な語り口で綴った、大佛次郎賞受賞作。

新しい職場に到着した著者は、業務統括部長に「とりあえず、座っといてくれ」と言われます。そこではセラピーもやるがデイケアの仕事が日常で、患者たちと共に「居る」ことが業務の大半を占めていたのでした。著者はセラピー(患者と対面して心の深奥を語らせ、自己を見つめさせ、傷に向かい合わせる)をしようとして失敗もし、ケア(相手を傷つけないようにその求めているところを満たし、共に居続ける)を実地に体験して学んでいきます。

かつて大学に心理学科が続々開設された時期、私は一般教育の文学担当で、心理学の教員たちに手を焼きました。とにかく上から目線。堪りかねて若い助手に、なぜ心理学をやりたかったのかと訊くと、人の悩みを聞いてあげたいと言う。聞いてどうするんだと言うと、どうもしないと言うので、それじゃ心理学でなくてもいいんじゃないか、と突っ込んだら、さすがに賢い子で、ええ、バーのママさんでもいいんですとの答え。爾来、心理学には偏見を持っていたのですが、ちゃんと現実にぶち当たって悩む心理士もいるんだ、と嬉しくなりました。

もう一つ感心したのは、最近の院卒はデモンストレーションが巧い、ということ。以前読んだバッタ博士もそうでしたが、コミックな語り口で、専門分野の説明も自分のキャリア説明もやってのける。頼もしいですね。