菊見酒

このところ月の美しい晩が続きます。我が家では小菊が咲き始めました。あちこちから小枝を失敬してきて、挿し木で増やしたのですが、数年のうちに新種から消えてゆき、けっきょく残ったのは、シンプルな白と黄色の小菊でした。これが一番、菊らしい、と満足しています。夏前にちゃんと摘心もしたのですが、縦横に伸び、ベランダの障壁一杯に壁画を描いたように咲き乱れています。日が当たると黄金色に輝き、ひとときの幸福感を演出してくれます。

学部を卒業するとき、クラス担任は故関根慶子先生で、ちょうど附属高校の校長をしておられました。みんなで相談して、卒業記念には毎週1回、校長室へ生花をお届けしようということになり、先生のお好みを伺いに行ったところ、花は何でも好きですが黄色い菊だけは駄目、と仰言り、私も同感だなあと思って、花屋にはそう注文しました。でもこうして、晩秋の陽光に輝く小菊を見ると、先生、黄色い小菊もいいですよ、と言いたくなるのです。

ポットマムとか電照菊とか呼ばれる、丈が低くびっしり花のつく品種がありますが、あれは好きになれません。人工的過ぎるからです。都会の、デザインされた公園花壇には向いているのかも知れませんが。名古屋を離任するとき、矢作川を渡って六郷川の向こうへ帰るんだ、と思いながら車窓を見つめましたが、電照菊を育てる白いビニールハウスが延々と続き、感傷は萎みました。

月と菊が美しい夜―これはどうしても熱燗の日本酒ですね。もう、毎晩嗜む能力はありませんが。