小結貴景勝の優勝は、上位陣の休場や突っ張りだけが持ち技、という限定条件を差し引いても嬉しいことです。何故なら、師匠の突然の引退、部屋替えという衝撃を真正面から突破しての優勝だから。かの親方の言動は、スター横綱のイメージを損ね、相撲というスポーツの品格(この語はあまり使いたくないのですが)をも低下させるものでした。しかし貴景勝にとって、親方は親方です。若い弟子が正攻法で、親方の教育の成果を見せつけたのですから、これ以上の恩返しはありません。親方にとっても、最高の見送りになったはずです。
今後は突っ張り、押しだけでなく、四つ相撲でも強くなって貰いたい。相撲の醍醐味はやはり、がっぷり組んでの闘いにあります。若い頃、ストレスの多い仕事に愚痴をこぼす私に向かって、父はよく、相撲と違っておまえらの世界は勝ち負けがはっきり見えないから気の毒だなあ、と言い、私は複雑な気持ちで聞いていました。
フィギュアスケートの競技会のTV中継を、よく視ます。綺麗で感動するからだけでなく、選手の精神的な闘いが、身につまされるからです。その意味で、羽生結弦は何と言ってもすごい。本番でいちばんいい演技ができるためには、どれだけの余裕を確保し、また自らの恐怖を抑え込んでいるか、叶わないなあ、と思ってしまいます。何千時間の練習がたった3~4分の演技に凝縮され、しかも、他人の目で見て美しくなければいけないという評価基準に自らを持って行って合わせる、というスポーツです。
それに引き替え、私たちの仕事の難しさは、勝敗がいつつくのか、つくのかどうかも分からない―ところにある。父にそう言い返せなかったことが、今も心残りです。