七難隠す

朝日新聞日曜版に、「サザエさんをさがして」という連載があります。かつて同紙に連載されていた長谷川町子の4コマ漫画の中から選んできた1本をもとに、記者が書く時世評なのですが、今日の「肌の色への偏見 無批判に取り込んだ日本」には、どうしても反論しておかねばと思いました。

長谷川町子は福岡出身で、私の親とほぼ同世代(5年ほど若い)、当時の中流サラリーマン家庭の雰囲気をよく表現していました。新聞連載のごく初期から読み、後に単行本化された時はせっせと書店で買い求めたものです。

さて問題の時世評。カツオが同級生の女の子に、日焼けしているのは海へ行ったのか山へ行ったのか、と訊いて否定され、「君、もともと黒かったんだね」と合点して泣かれる、という1962年9月1日の4コマを、アフリカ系異人種差別への批判だと読んでいます。いかにも新聞記者らしく、1959年頃の映画や新聞記事を引き、作家や学者のコメントを求めていますが、ずばり、原作の誤読(乃至は強引なこじつけ)です。掲載日は9月1日、夏休み明けの学校の挿話。この頃ようやく日本は家族旅行が普及し、日焼けは、ちょっと余裕のある家の子が自慢できるしるしだったのです。画中の女の子は、髪型から言っても日本人。そもそも混血児絡みの「心ない発言」だったら、「サザエさん」の題材にはなりません。当時のそういう偏見はもっと深刻で、うっかり口にして泣かれるだけで済むようなものではありませんでした。

むしろ当時の女の子たちは、色が黒かったり眼鏡をかけたりしていると、かわいくない、もてないという偏見にさらされていて、漫画でからかえるとすれば、そういう「偏見」でしょう。子供時代、弟は色が白く、それに比べて色の黒かった私は、周囲の大人の「心ない」言葉によく出会い、「色の白いは七難隠す」という諺はいやというほど聞きました。でも私は髪が黒くて多かったので、祖母がそれを褒めてくれ、「天二物を与えず」という諺も覚えました。

サザエさん」を通して昭和を読む文章には、しばしば勝手な思い込みや無知が根拠になっていることがあって、いらいらさせられます。だがこの例はひどすぎる。作者のためにも、昭和の子供たちのためにも、抗議しておきます。