土筆

新しく土を入れた公園や道路脇などに杉菜が生え、そう言えば土筆に気づかなかったなあ、と改めて見直す事があります(杉菜は、土筆の胞子から芽を出して増える)。土と一緒に杉菜の地下茎も運ばれてきたのでしょう。土筆は保護色をしていて、よくよく目を凝らさないと見つかりません。

鳥取へ赴任して、市内を流れる川の土手に一面の土筆を見つけた時は、興奮しました。太古、狩猟・採取時代の記憶が蘇ったかのようでした。早速摘んで、小箱に一杯詰め、クール便で東京の知人に送りました。知人は料理学校の校長をしていましたが、後日届いた礼状によると―日本料理では春先に使うもの。まず薄い砂糖水で煮しめてから形を崩さないように陰干しし、ざらめをぱらっと振って、付け合わせに出す、その作り方の教材にした、こんな姿のいい土筆はなかなか手に入らないので、とのことでした。

後日、笊一杯摘んで台所の流しに置いておいたところ、やってきた電気会社の検針員が、「戦争中の物の無い時に食べたもんだ」と言ったので、私の風流心はこっぱみじんになりました。

袴と呼ばれる部分を取り除き、甘辛く煮て卵でとじるのが一般的な食べ方です。皇居内では炊き込み御飯にするようですが・・・。かつて吉野山へ行った時、売店の奥の暗がりに、摘みたての土筆を山盛りにした大きな笊がごろんと置いてあったことを、今でも思い出します。歌書よりも軍書に悲し吉野山、という句と一緒に。