喫茶店今昔・その3

近所に江戸時代から続いているという金魚屋があって、喫茶店も経営しています。屋内はちょっと変わった構造になっていますが、女将の言うには、もとは金魚を入れる水槽だった由。店が小路の引っ込んだ所にあるので、知名度を上げるために改造して喫茶店を始めたのが14年前。今ではちょっとした名所になっていますが、中には金魚を食べさせる店と勘違いする人もあるようで、いくら何でも金魚で満腹にはならないよ、と笑いました。

交差点の近くにある大きなビルの1階に、淹れ方に一家言のある親爺が名物だという珈琲店があります。近々隠居するので閉めるという噂を聞き、入ってみました。この近辺は「一家言のある」店主というのが多くて、恐る恐るです。カウンターには赤銅の大きなサモワールがありますが、今は使っていないとのこと。湯の温度にこだわりがあるようで、何度も温めたり器を替えて冷ましたりしながら淹れてくれました。地元の老人たちが入ってきて、店主の老夫婦としばらく世間話をしては帰って行くようです。

我が町もこういう店は少なくなり、いわゆるカフェテリア風の、セルフサービスの店が増えました。そういう店はみんな黙ってPCやスマホをいじっていて、話し声を嫌うようです。学生街なので、白十字など大正昭和から続いた店もあったのですが、学園紛争時代に殆どが潰れ、談話ができる、古くからの店は数えるほどになりました。

ある時、人と話をするために入った六本木の喫茶店で、薄暗がりの中、珈琲のカップを持ち上げようとしたが取っ手が無い。どうやらおしゃれなカップのようなのですが、客の誰もが一度はカップの回りを手で探るでしょう。趣味がいいとは思えませんでした。