商品開発

名古屋には「二人静」という銘菓があります。三盆白で作った小さな紅白のお菓子で、箱には源氏物語を思わせる男女の絵が描かれています。名古屋に勤めていた時、中古文学専門の先輩が亡くなりました。『国書総目録』を作るアルバイトで御一緒したので、御供物を送ろうと考え、「二人静」がぴったりだと思って、デパートの名店街へ出かけました。「御霊前」の熨斗を、と言ったら、冠婚葬祭にうるさい名古屋のこと、店員が頑として、これは祝い菓子だから、と承知しません。私がちゃんとお手紙を書くから、とやっと説得して発送手続きを済ませました。奥様には、こういうわけでもとから紅白のお菓子ですが、御霊前にお供え頂き、お二人差し向かいで静かにお茶を召し上がって下さい、と手紙を書きました。

福岡にも「鶴の子」という紅白のマシュマロで作った銘菓があります。結婚式や正月に子孫繁栄を希う祝い菓子です。檀一雄の奥様の好物だったので、亡くなった時には特注で紅抜きを詰めて貰い、御霊前にお届けしました。

さて、名古屋の「二人静」。3ヶ月ほど経って店の前を通ったら、紅白でなく紫と白の菓子を白描の箱に入れて、不祝儀用として売っていました。あの商品開発のきっかけは私が作った、とひそかに思っています。さすがに「鶴の子」の方は(日持ちしない)、特注するしかないようです。