近年、栗を使った上菓子が増えました。栗の栽培が増えたのは、人手がかからず、しかし税制上農地の証明になる栗を植える空地対策のせいだと聞いたことがありますが、今年は市場に出る栗が少なくなるかもしれないとのこと。不作年であるだけでなく、熊に荒らされ、また藪が近い栗畑は小人数で収穫に行くのが危険だからだということです。
栗は剥くのが大変、しかし最近の剥き栗は値段が高い。気安く炊き込み御飯や煮物にはできない値段になりました。鶏肉と一緒に煮ても、塩味の白飯に入れて炊いても美味しいのに・・・子供の頃は殻に切り目を入れて、火鉢やストーブに乗せて焼きました。気長にぽつりぽつりと食べるお八つでしたが、それがまたお八つらしかったのです。
「里の秋」という童謡があります。「お背戸に木の実の落ちる夜は」という歌詞が好きでした。木の実の落ちる音を聞いている、というのが、いかにも静かな、母子だけの暮らしを表現しているからです。「栗の実煮てます囲炉裏端」(茹で栗でしょう)という歌詞に、何故焼かないんだろう、その方が美味しいのに、と思ったものでした。
子供の頃、「歌のおばさん」という朝のラジオ番組があって、この歌がよく歌われました。しかし後年になって、じつは南方に出征したまま帰らぬ父を待つ母子家庭の歌だと知りました。そう言えば3番の歌詞には、「さよならさよなら椰子の島」という一節があって、父の帰還を故郷で待ちながら、更けゆく秋を感じている歌なのでした。寂しく、不安と一縷の期待を抱いて、ひっそりと過ごす秋の夜だったのです。
参考:https://www.dwc.doshisha.ac.jp/research/faculty_column/14451
平和で、ちょっと贅沢な菓子も口に出来るようになった日本の秋。はしゃぎ回る政治家や、名声と強さとを身に纏いたがるマッチョの為に喪ってはならないものが、ある。