剣道の話

スポーツニュースで、五輪のフェンシングや剣道の選手権大会のシーンを視ることがあります。私は知識も関心もないので、ああいうものか、と見るだけですが、殊に剣道には単なる技術や勝負だけではない、弊国ならではの背景があるようです。日曜日、剣道の全日本選手権大会が武道館で行われ、TVに齧りついて視聴した、と福井の大谷貞徳さんからメールが来ました。高校時代は剣道少年だったらしい。

世田谷にあるK大は武道、殊に剣道の強豪校です。故今成元昭さんが若い頃勤めていて、ある年、軍記物談話会の新年会でこんな話をしましたー学長の学位詐称問題から民主化運動が始まり、まず職員の労組ができたら、大学の雇った右翼集団が抜き身を提げて押しかけてきた。しかし職員の殆どは剣道の有段者で、玄関前に並んで、あんなへっぴり腰で人が斬れるか、斬ってみろ、と笑っていたのですごすご帰り、翌日教員の労組ができた、と。その話を鳥大で同僚だった錦織勤さんに話した(彼は広島大学時代に剣道部で、研究室にも木刀が置いてあった)ところ、K大の剣道はまったく違う、と言うのです。学生時代、試合で立ち合って吃驚した、構えが違う。こちらはスポーツ、あちらは実戦、面を取られて脳震盪を起こした、とのこと。

大谷さんのメールにはこうありましたー【男子の優勝者(竹ノ内佑也)は圧倒的でした。彼は大学生の時に全日本で優勝し、最年少優勝で当時話題になりました。それから10年が経った今の彼の剣道は、全く違っていました。彼にとってのこの10年は、様々なことがあったのだろうと思わずにはいられませんでした。】

ネット情報によれば、竹ノ内選手は大学卒業後警察官になり、昨年はチームを率いての出場だったらしい。彼の10年は大谷さんの10年でもあったわけで、剣を見て人の軌跡を思った、その過程を感慨深く思いました。