『長門本平家物語の新研究』(花鳥社)を上梓してから3週間、献本した方々からメールや書簡で感想を頂き、励まされています。中でも嬉しいのは、御自身の研究と関わらせて寸感をお知らせくださることです。
【現在、幕末出雲の歌書の貸借について調べているが、写本作成の過程を追うことの重要性をつよく感じているところ】で共感した、という方もありました。
公的写本と私的写本という区別が、日本史の文献でも言えるだろうかと気になったとか、古態本、古写本が必ずしも善本とはいえないことを、『江家次第』を例に挙げて説明してくださった方もありました。有職故実の故鈴木敬三氏が、流布本や源平盛衰記に比べて長門本の装束や武具などの記述の方が正確だと言っておられたそうだと伝えたところ、近藤好和さんから、早速長門本の装束描写を調べ始めたとのメールが来ました。
いま酒呑童子絵巻を手がけているが、本書が全体のコンセプトとして原態とか形成ではなく、流動に焦点をあてたところに共感を持った、絵巻にもそういう面がある、とのメールも来ました。執筆者の1人小井土守敏さんからは、この機会に【室町的なものについて、もうひとつ考えが深まったような手応えがありました】というメールが来て、企画してよかった、と編者冥利に尽きる思いがしました。
異なる専門の方からは、基本的な情報が得られて、卒論指導などに便利、という謝辞も頂きましたが、わざと便利なマニュアル本にはならないよう、本書を出発点に、御自身で新たな調査・研究を開始して貰えるように編んだ所存です。人文系の研究は、先行研究を参照しながらもそれにそのまま接いでいくことはできない、一旦思考過程を組み直してみる、もしくは疑ってみることが必要、と教わってきました。