越前だより・天理訪書篇

福井高専の大谷貞德さんが、天理へ調査に行った時の写真を送ってきました。貴重な蔵書を多く抱える天理大学の図書館は、文献調査の聖地とでも言えるところです。

天理大学図書館

私も院生時代に長門本平家物語の調査で、また30年前に八坂本平家物語の共同研究をした時には村上学さんのお供で、八坂系諸本の閲覧に行きました。

その頃、天理大学図書館は夏の間は午前中しか閲覧が許されなかったので、午後が空いてしまいます。村上さんが玄賓僧都の跡を訪ねたいと言うので、私も一緒に、所謂山辺の道を歩くことにしました。いま思えば、夏の午後の暑い盛り、よく歩いたと思いますが、村上さんは巨体の割に足が速い。思わず陸軍出身ですかと訊いて、時代が違う、と叱られました(あの頃、陸軍経験のある年長者は歩くのが速く、海軍経験者は時間厳守という特徴があった。村上さんは終戦時7歳)。山辺の道には天皇陵が幾つもあり、どの陵だったかもう忘れましたが、入り口に水の入った白木の手桶と柄杓、小盥に杉の葉を敷き詰めたものが置いてある。私たちは???です(記念に杉の葉1枚持ち帰ろうか、という気がちらっと掠めました)。私は後年、國學院大學に勤めたので、今なら誰かの参拝の用意だと分かる(國學院では教職員の就任式には、杉の葉を敷き詰めた小盥の上で手水を使い、お祓いを受ける)のですが、当時はそんなことは知るよしもない。事務所で訊くと、この時期は宮内庁の人事異動があり、新任の担当課長は各地の天皇陵に参拝するのが慣わしで、間もなく見える、とのことでした(杉の葉を失敬しなくてよかった!)。

石上神宮入り口

大谷さんは早起きして、石上神宮に詣でたそうです。日本書紀伊勢神宮と並んで録された古い神宮で、いろいろな伝説のあるところ。

石上神宮

長門本平家物語伝本の相互関係が、次第に明らかになってきたとの報告でした。