福井高専の大谷貞徳さんから、訪書旅行で鶴岡へ行ってきた、とメールが来ました。
【鶴岡市郷土資料館へ行って来ました。致道館旧蔵の長門本を調査するためです。
前日入りして、旧致道館を見学しました。市のHPによると、藩校の建物が残っているのは、東北ではここだけなのだそうです。】
【2日目は午前中から調査を行いました。じっくりと見させて頂き、濃密な時間を過ごしました。致道文庫本は、丁寧に写されている本だとの印象を持ちました。藩校で所持していたものですし、貸し出しも行っていたようです。】
【隙間時間を使って鶴カ岡城址公園も散策できました。庭園が素晴らしかったです。山形は、先日の大雨と、台風5号の影響とで調査に行けるかどうかも危ぶまれましたが、滞在中は雨に降られることもなく調査を終えることができました。】
鶴岡は私も半世紀以上前、長門本の調査に行きました。致道館の前に掘割があって、睡蓮が浮いていましたが、夜行列車で着いてそのまま調査し、夕方出たので、花の開いた風景を見ることができませんでした。帰りには酒田へバスで六十里越えして、茅葺屋根の集落田麦俣や、月山の即身仏を訪ねました。晩夏にかかる時季で、暑いけれど爽やかな青空にイワツバメが群れ飛んでいたことを、昨日のように思い出します。
長門本は近世を通じて版行されることなく、しかし全国に伝本が多く残っていることで目立つ平家物語です。大谷さんの調査が進むにつれ、各地の藩校に伝本が保存されていた例が多いことが分かってきました。現在では所在不明になったものの幕末、明治初期まではあったらしい、という記録が見つかる所もあるようです。現時点で78組の伝本が確認されていますが、この160年間に、どれだけの本が喪われてしまったことでしょう。