柴佳世乃さんの『仏教儀礼の音曲とことば 中世の<声>を聴く』(法蔵館)を読んでいます。柴さんはすでに『読経道の研究』(風間書房 2004)という著書を出していますが、それから20年目、生活者としても、教育・研究者としても、生涯で最も核となる時間を注ぎ込んだ成果が全776頁という大著になりました。
本書は論考編と資料編に分かれ、前者は1中世の<声>ー読経、唱導、念仏、和歌 2読経の音曲とことばー『読経口伝明鏡集』と読経道 3唱導の音曲とことばー澄憲『如意輪講式』とその周辺 の3部構成、後者は読経関連と唱導関連計9点の資料の翻刻と解題を載せています。論考はこれまで公表してきた論文を調整したので、長さもほぼ一定し、基本的前提は繰り返し述べられていますが、それが読みやすさを助けています。中でも中尊寺を中心とする、澄憲の『如意輪講式』を儀式として復元するプロジェクトに参加したことが本書の心柱になっており、澄憲がこの講式を書写山に籠もって作ったとされていることから、視野は書写山や後白河院の周辺にも拡がっています。
何と言っても大部で、私にとってはあまり読んだことのない仏教資料が中心なので、自身の関心に沿って読むことにしました。つまり、音声によって硬質の漢語、仏語、思想的な内容を聴衆に伝え、感動を引き出すことは、どうやって可能になったのか、という観点です。1-6仏教儀礼における<声>、2-6平家語りと読経道、3-2『如意輪講式』におけることばと<声>など、多くのヒントを得ましたが、でもなお、聴衆のどれだけがことばの意味を理解し得たのだろうか、音曲と場の雰囲気と、およその趣意が解っただけで満足したのか、という疑問は残りました。