10日分の生活費を出しに銀行へ行ったら、ATMから渋沢栄一が揃って出てきました。造幣局御自慢のホログラムが派手派手しい。気がついてみると、旧札にも左隅に小さく楕円形のホログラムがあったのですが、意外に紙幣をしみじみ眺める機会はないものです。
国民的ドラマと言われた「北の国から」で、父親からお守り代わりに渡された1万円札を奪われ、極道の娘に取り返して貰う挿話がありました。しかし通常は、一目で判断して、その場で手放してしまうもの。じつは私が今回の新札を初めて手にしたのは、先月下旬のこと、狭くて混み合うスーパーのセルフレジから出てきた5千円札をそのまましまい、翌日、今度は人力のレジで、支払いのために財布から抜いた瞬間でした。ド派手なホログラムの帯が光り、あっ新札だった、と気づいた瞬間、店員の手に渡っていました。
それから数日後、やはりスーパーのお釣りの中に北里柴三郎が1枚、入っていました。今度は肖像が違うな、と認識したのですが、逆に旧札が野口英世だったことを忘れていて、見比べながら夏目漱石はいつまでだったっけ、と考えたくらいでした。思い出せば2千円札というものもありましたが、今は殆ど見かけません。受け渡しに誤解が起こらないように、気を遣いました。
鳴り物入りの新札発行でマスコミは大騒ぎしましたが、いったい何故かしら。偽札が出たという話も昨今は殆ど聞きません(今どきの詐欺師たちは、もっと違う貨幣を狙うようです)。紙幣の原板を彫る技術保存のため、つまり伊勢の御遷宮のようなものでしょうか。景気を盛り上げるとか箪笥貯金をあぶり出すとかいう理由は、ぴんと来ません。ATMの設定変更と自販機の更新くらいで景気がよくなるとは思えない。これ小判、たった一晩居て呉れろ、という川柳があります。我々には、「新札。何がめでたい」。