源平盛衰記全釈19

早川厚一さんが中心になってグループで続けている、源平盛衰記注釈の連載「『源平盛衰記』全釈」(「名古屋学院大学論集」人文・自然科学篇60:2)がようやく巻6の最後まで到達しました。軍記研究者3人と、仏教説話、日本史、日本語学、中国文学などの研究者の合計8人がメールで意見交換をしながら進めているそうです。

今回は慶長古活字版で言えば「小松殿教訓父」の後半から「同人召兵」「幽王褒似烽火」までの部分が対象ですが、注釈の内容としては、幽王褒似の故事に関する考察がヤマになっています。仏教説話や中国文学の専門家が参加している強みでしょう。盛衰記は概ね漢籍の原典そのままを引用するのではなく、日本の類書や説話集を参照していることが多い、と指摘しています。

頭の下がる労作ですが、使う方から言うと、➀校異・語釈 ②諸本との関係 ③史料・典拠 ④考察 くらいに分けて、一目で把握しやすいように表示して欲しい。紀要という紙数の制約もあるでしょうが、多様な情報を紙面べったりに詰め込まれると読みにくく、利用しにくい。特に授業の予習などで参照したい時には困惑するでしょう。せめて箇条書きや文字の強調を活用するなど、単行本にする際にはぜひレイアウトを検討して欲しいと思います。また考察部分は、中核となった意見の主の名は入れておいた方がいいのでは。

40年以上前の『源平盛衰記(一)』(三弥井書店)の本文作りを振り返りましたが、同書p219の13行目「アルラン。卜巫ニ」は、「アルラント巫ニ」が正しいとの指摘は尤もだと思います。古活字は確かに漢字の卜ではなく片仮名のトでしょう。しかし蓬左本や静嘉堂本では「卜筮」と解釈しており、その方が文脈がすらりと徹るので、そのように校訂してしまったのだと思います。今なら仮名にしておいたかもしれません。