「鴨東通信」118号を読みました。京都の思文閣出版の広報誌です。巻頭のコラム「日常語のなかの歴史」は清水翔太郎さんの「おふくろ【お袋】」、現代では自分の母親を親しみを以て、または謙遜して(照れて、という方が近いか)呼ぶ語だが、かつては敬称だったという。17世紀の大名家における母の地位の変化が意外でした。
面白かったのは藤島綾さんの「業平のひげー『伊勢物語 造形表現集成』刊行によせて」でした。色男の代名詞とも言える在原業平ですが、伊勢物語(業平仮託の物語、と言うのが正確)には美男子だとの表現はなく、業平没後20年頃成立の『日本三代実録』に「体貌閑麗」とあるだけ、読者が勝手に、恋多き男は美男子に違いないと思っているにすぎないのでした。伊勢物語の場面はさまざま絵画に描かれますが、継承関係にある絵画資料なのに業平に髭のあるものとないものとがある、それは何故か、という話題です。時代によって美男子が有髭が無髭かが異なるのだという推理には、高校時代、英語の授業でヘンリー・ミラーを読まされた時、教師が、欧米では若くても男には髭があるのが普通なのだと言ったことを思い出しました。
座談会「歴史に埋もれた女性たちの声を聴く」では、無外如大尼研究の論集を出したモニカ・ベーテさん、パトリシア・フィスターさん、それに『女かぶき図の研究』を出した舘野まりみさんが、中世から近世の社会史、芸能、美術、そして女性史に関わる研究について話し合っています。先日の中世文学会の米田真理子さんの研究発表も、この動向の一環なのだと思い当たりました。ほかにも論集『万博学』と同名の雑誌刊行、琉球国王の肖像画、藤原道長など今まさに話題になっているテーマの本が新刊予告に並んでいて、さすが京都、と印象づけられました。