江戸の絵本

叢の会編『江戸の絵本読解マニュアルー子どもから大人まで楽しんだ草双紙の読み方』(文学通信)を読みました。草双紙とは、18~19世紀、江戸で出版された絵入りの娯楽本の総称です。当初は薄い、小型本で、表紙の色によって赤本、黒本、青本などと呼ばれ、次第に中味が増え、長編となって、黄表紙、合巻などが出現した―と文学史では暗記してきたのですが、本書のp18~40を見ると、一遍でその流れが理解できます。本書は全304頁ですが、よくまあこんなに情報を詰め込んだ、と感心するほど(文字が小さいのは老人には厳しい。p14~16は白地にして欲しかった)です。「詳しくはこちらのQRコードから」との流行スタイルも採り入れ、学芸大学らしく、小学生に草双紙を読ませる授業を試行した記録も入っています。

「本書の読み方」という導入の後、Ⅰ江戸の絵本=草双紙 Ⅱ絵入り読み物の歴史 Ⅲ草双紙の作り方・読み方 Ⅳ草双紙と現在 という構成で実例をたっぷり挙げ、本書を読めば草双紙40篇以上を、早送り、解説付きで読んだも同然の体験ができます。挿絵がふんだんに採り入れられ、絵と文章とが対等に物語を語る、近世文学の一面が知られます。

叢の会とは、1979年に発足し、東京学芸大学の故小池正胤氏と黒石陽子さんが中心になって運営してきた、近世文学の研究会です。こつこつと活動を続けていることは知っていましたが、研究と教育とに志を持ち、古典の楽しさと同時代性(草双紙はアニメに通じる)とを、こんなに知恵と工夫を凝らして発信できる会だったのだ、と感じ入りました。

かつて『国書総目録』出版のためのアルバイトで、膨大な草双紙の書誌調査に関わった経験がありますが、本書を見て断片的知識が一気に文学史の体系に繋がり、量で記憶されていた草双紙が、文芸的な面白さを開示して眼前に展開しました。お買い得。お奨め。