樟の下の休日

人の少ない内に、と東大構内の樟の木陰へ新聞を読みに出かけました。公孫樹並木が鬱蒼と茂り、ヒマラヤ杉が細かい針のような古葉を降らせていました。安田講堂前には左右対称に樟の老木が円い空間を作っています。長い石のベンチの端に腰を下ろし、買ってきたカフェラテを飲みながら、コロナで入れず、久しぶりの構内を眺めました。

もう1本の樟の若葉が陽光に輝いて、惚れ惚れするくらい美しい。思い切り肩を露出した女性が何か食べていたり、家族4人が黙ったまま(ずっと)座っていたり、何やら民俗芸能風の隊を組んで歩く学生の行列や、安手のゴスロリの彼女を草の上に座らせて、執拗に撮影する男性もいました(こんなはげちょろけの植え込みを背景にしなくても、と思いましたが)。私の座ったベンチには男子学生2人が座って、お喋りしています。どうやら何か喧嘩した後始末らしく、大学の寮とアパートとYMCAの寮と、どこに住み替えるかという話なのですが、聞くともなく聞いていると、2人の気持ちはすれ違っている。本郷の男の子って、こうだったなあ、とふと感慨に耽りました。そのうち1人が、地面を這う亀を見つけました。どこから来たのでしょうか。

すこし風があるので、ときどき樟の枝から咲き終わった花がばらばらと落ちて頭を打ち、そこここに溜まります。この樹は学生時代から大木だったけど、思えば50年以上が経っているのだから、あの頃はもっと若かったはず。香りというほどではないが、落ち着ける匂いに包まれる木陰です。

亀は歩き続け、木陰を抜けました。三四郎池を囲む伸び放題の林がざわめき、「風の又三郎」を思い出させます。あらかた新聞を読み終えたので、図書館前の広場を通って帰りました。帰宅したら、そこら中に樟の花がこぼれました。