中世歴史物語

福田景道さんの『中世歴史物語の基幹組成ー『増鏡』『梅松論』の文学史的研究ー』(武蔵野書院 2022/11)という大著が出ました。私は梅松論は通読したことがあるだけなので、増鏡に関する論述を主に読みました。全454頁、序編『増鏡』と『梅松論』 第1編『増鏡』の基幹組成と世界構図 第2編『梅松論』の基幹組成と世界構想 第3編中世歴史物語の史的展開 という構成になっており、昭和58(1983)年から令和4(2022)年、40年間に亘って書き溜めてきた論考の中から選んで編まれています。「基幹組成」とは、作品世界を統御する内部構造に、福田さんが命名した用語だそうで、作品の中心軸を貫流する機構を追究したい、と言っています。

先行研究と、作品本文そのものとを読み込み、平易な文章で著述していくスタイルで、もしも職場の同僚だったら、篤実で間違いがなく、安心して一緒にいられると感じただろうなあ、と思いました。歴史物語は皇位の継承、皇嗣に拘ることを繰り返し指摘しています。帝紀が歴史叙述の根幹にあり、時の継続を重んじる歴史物語では、当然でしょう。

挙げられた先行研究の著者名は私にも懐かしい名前ばかりで、軍記物語に限らず中世の実録散文作品を汎く見渡したい、と考えていた頃のことを思い出し、書架の一隅を覗いたら、今鏡や増鏡を初め歴史物語の研究書を、いつか講義する時のためにと蒐集していた名残が見つかりました。福田さんがジャンルに拘り、その文学史的位置づけを目指しているのも懐かしい。近年は、ジャンルとか文芸性とかを踏み越えるのが新風だからです。

書架から『歴史物語講座5 水鏡』(風間書房 1997)を引っ張り出し、「散佚歴史物語『弥世継』の研究」(島根大学教育学部紀要 2011/12)をレポジトリで印刷し、しばし自分の怠惰を反省しました。