襲名披露

フィギュアスケートの季節になりました。もう羽生結弦はいません。大相撲にももう、白鵬はいません。時代はこうして移ってゆく。歌舞伎座ではやっと、市川團十郎襲名披露が始まりました。東京五輪以前から取り沙汰されていた襲名です。観に行かなくっちゃ、という気持ちと、何故か気の進まない腰の重さとの両方があります。

11代目の襲名口上と睨みは、演劇好きの友人と一緒に観ました。彼女は日舞や邦楽も知っていたし、中学時代から舞台の才能を認められていて、私を演劇の世界へ導いてくれた人でした。彼女に半ば「連れられて」行ったのだと思います。昭和37(1962)年4月で、「睨んで御覧に入れます」という厄払いの見栄はつよく印象に残りましたし、「助六由縁江戸桜」はあちこち不思議な筋立てはあるものの、大がかりなエンタテイメントでした。「勧進帳」はラジオ中継で聴きましたが、花道を引っ込んでいく時の、アナウンサーの「額にうっすら十一代目」(汗という語を言わない)名調子を、今でも思い出します。

12代目の睨みも舞台で観ました。特に歌舞伎通ではありませんし、江戸っ子でもないのに、縁起物だからという思いが強かったのです。東京にいるなら團十郎襲名の睨みは観なくっちゃ、という気になる。私と同世代の12代目は、台詞回しが悪い、大根、と言われたぎごちなさが取れ始めた頃、病に襲われました。

歌舞伎役者の代替わりには、何よりも時代の推移を感じさせられます。もう次は観られない縁起物だからとは思うものの、しかし13代目襲名舞台へは、コロナのせいだけでなく何故か腰が上がりません。あまりに実生活のあれこれを知らされてしまったからでしょうか。睨んで貰おう、とも、贔屓にしてやらなくっちゃとも思う相手ではないような・・・多分、歌舞伎特有の、あの別世界感がないからです。