令和の吾妻鏡

藪本勝治さんの『『吾妻鏡』の合戦叙述と<歴史>構築』(和泉書院)を取り寄せて読んでいます。史書とされる吾妻鏡が北条得宗家政権を正当化した経緯を、合戦の記述を中心に分析して、神仏の加護を強調したり、家々の勲功譚を集成する際に得宗家には不都合な事実を省いたりした脚色として跡づけた書です。40年近く前、重衡記事を読みながら、吾妻鏡はれっきとした「物語」じゃないか、と思ったものでしたが、近年は日本史の方からもそういう視点が打ち出されてきて、意を強くしています。

承久の乱から800年という節目もあり、中世史研究の動向や資料の再発見などもあって、今年の大河ドラマはヒットしているらしい。尤も、先年の「平清盛」の低視聴率に懲りてか、NHKの放送時間内番宣の執拗さは目に余りますが、その上SNSなど今どきの通信媒体をフル活用し、出演者を動員して盛り上げているようです。

一方で現代に合わせた脚本の巧みさ、役者選びの成功、それに長々と説明せずカット割りを駆使してテンポよくストーリーを運んでいく演出の上手さは、ヒットする理由として十分、と頷けます。アニメの手法に通じる時間処理、とでも言えましょうか。よく知られた既成のイメージをちょっとずつ裏切る兼ね合いも、ちらりと出す伏線を後に回収していく手法も、手練れの語り手の証明です。

歌舞伎役者、新劇俳優、TVタレントを取り混ぜたキャスティングも、成功理由の一つでしょう。最近観劇に出かけていない私は、同時代に、いい俳優たちがこんなにいることを初めて知りました。殊に要所要所に配置された歌舞伎役者の存在感は大きい。顔の筋肉がよく鍛えられている(それゆえ素顔は必ずしも美男ではない)と感服しました。

物語である吾妻鏡を原作とした、三谷物語。史実とはまた別の、令和の娯楽大作です。