見たい未来しか

朝日新聞8月14日のGLOBE欄に、「プーチン 戦争への道」と題して、3頁全面に前モスクワ支局長喜田尚(1961年生。2017年から今年5月までモスクワ駐在)の報告が載りました。唐突に見えたロシアのウクライナ侵攻までの経緯を、①2002年5月28日NATO首脳会議(通称19+1)、②08年8月のジョージア衝突、③14年2月のキーウ介入、④19年12月9日の独仏を交えたプーチンとゼレンスキーの対面、⑤20年1月15日のプーチン演説、そして⑥今年2月のロシア侵攻と、重要な局面に現場にいた体験を基に説き明かす、読み応えのある文章です。

殊に④は、プーチンの渋面写真と共に両国首脳の絶望的なすれ違いを認識させますし、③は目撃体験の衝撃を感じさせられます。ソ連崩壊後のロシアの苦衷や、ウクライナ国民が直面した状況もよく説明してあり、何よりもプーチン自身の妄想が国民の圧倒的な支持によって、もはや後へは引けなくなっていることがよく分かります。

①から②までの間、ブッシュ政権イラク侵攻、東欧のミサイル防衛構想など欧米がロシアを軽視して進めた政策が、孤独な大国の大統領を猜疑に追い込んで行っていることに気づかなかったのは痛恨です。素人の私でさえ、米国はやり過ぎだと屡々思うことがあるのに、首脳たち、その側近にいた外交マンの誰も、手を打たなかったのでした。

筆者は「私たちは1989年のベルリンの壁崩壊や冷戦終結に自由と民主主義が勝利したと考えた。2年後のモスクワを見た私はロシアもそこに加わり、国際協調の道を進むのだと考えた。私も欧米諸国も、見たい未来しか見ていなかった。第一次世界大戦で帝国が倒れた後、20年後に直面したのは、失ったものを取り戻そうとするナチス・ドイツの台頭だった」と結んでいます(一部抄略)。一読をお奨めします。