場を変える

羽生結弦が競技者を辞め、プロとして新しい演技の場に出て行くと発表した記者会見。号外も出たのだそうで、私は会見の映像は視ませんでしたが、事後の報道で知った時はそうだろう、その時だよ、と頷きました。彼自身の状況からも、男子スケート界の現状から言っても、今しかない、今はこれしかない、という選択だと思います。

27歳、我々の業界で言えば大学院博士課程を了える年齢ですが、彼としては第一の人生を締めくくり、その延長先に次の目標を設定したことになります。制約の多い競技の中で挑戦するより、表現者として本質的な目標に挑みたい、そういう決意でしょう。競技のメダルの数を増やすことより、もっとやりたいことがある、そう言っているのだと解釈しました。少年の顔から、男の顔になりつつあるなあ、とも思いました。

引き際を決断するのは案外難しいことらしく、それはあたかも人生の経験量とは逆比例する例が少なくないようです。それに比して彼の場合は、場を変えて目的追求はやめないという宣言なので、若さに相応しい前進感があります。

後輩たちのコメントもよかった。今までは背中を追っかけるばかりだったけど、これからは20代の男同士として話をしたい、と言った宇野昌磨。記者に卑下した応答をしたら、嘘をつく必要はない、負けん気が本来のお前なんだから、と諭された思い出を語った鍵山優真。後進は育っているし、責任も果たしたし、選手としてはもう十分。

これからは、事故や採点ルールにはらはらせずに彼の演技を楽しめるのでしょう。いやしかしー厳しい条件に立ち向かって、それでも勝ち抜いていく羽生結弦を観るのが楽しみでもあったので、今後アイスショー中継を視るかどうかは、今のところ疑問です。