果物遍歴

小玉西瓜を買ってみました。開発されたのは昭和34年だそうで、東海道新幹線が開通したのが昭和39年、商品名の「こだま」はそれに因んだのだと思っていましたが、ある時「小玉」だと悟ってちょっと落胆しました。西瓜を井戸で冷やして大家族でかぶりつく風潮がなくなり、小玉が次第に普及したものの、一度食べてみてまずかったので、爾来決して買おうとはしなかったのですが、美容院の親父に「今は美味しいですよ」と教えられ、駄目でもともとと百均で買ってみたのです。

冷蔵庫にすっぽり入って、なるほど便利。包丁を入れる感触も西瓜そのもの。櫛形に切ってかぶりつこうとしたのですが、どうもしっくりこない。味は往時とは別物、甘くて塩も不要です。結局、メロンのようにスプーンで食べるフルーツなのだと納得しました。難点は種が小さすぎて、呑み込んでしまいそうになること。

播磨坂のスーパーで桜桃を買い(桜桃忌が近いので)、隣りの棚を見るともじゃもじゃした雲丹のような果物がある。ランブータンです。買ってみました。かつてマレーシアのホテルで、ウェルカムフルーツの中に入っていたのを思い出し、懐かしかったのです。名は毛髪という意味だそうで、見た目は異様ですが、冷やして剝くと、茘枝に似た、白くて甘い果肉がつるりと出てきます。

ふと、40年前学生を連れて京都の長楽寺へ行き、石段の麓で不気味な木の実を拾ったことを思い出しました。白っぽい肌に薄く赤味が差し、まばらに毛のようなものが生えていて変になまなましく、卑猥ですらある。梢を見上げましたが、茂り合う木のどれに生っていたのか分かりません。学生からお捨てなさいと叱られました。あれは、もしかするとランブータンの未熟な実だったのでは。京都の野外でも実るのかどうか、分かりませんが。