手編みのショール

毛糸のショールを洗いました。極細毛糸の濃いピンクと、白地に紅で縁取りした、ゆるい指編みの2枚です。母の親友だったという人から、贈られました。

その人と初めて会ったのは、母の五十回忌の代わりにホテルで開いた、偲ぶ会の席上でした。母方の従姉たちと食事をしながら思い出話が弾み、別れ際に「あんたが何を着てくるか楽しみだったわ」と言われて、吃驚しました。2人は大学時代からの友人で、彼女には一足早く女児が生まれたそうです。戦時中の物の無い時代、あり合わせの物を着せた娘さんを見て、私の母は「まあ、女の子にこんなものを着せてるの」と言ったらしい(母方の実家は、遠慮の無い口を利く一家だった)。その後互いに逢う間もなく私の母は亡くなり、母方の知人たちとは縁遠くなりました。「だから、あんたが今日何を着てくるか、見てやろうと思っていたの」と言われて絶句、偶々その日は、花模様の上からレースのような刺繍を施したイタリア生地のスーツを着ていたので、ほっとしたのですが、内心、何て意地悪な婆さんだろうと思いました。

暫くして、あんたに編んで上げようと思って、という手紙と共にこのショールが送られてきました。当時は未だ私も若かったので、こんなダサい物、としまいこみました。しかし定年後、普段着はアイロンなしで着られる丸首が多いし、年を取ると首回りが寒い。殊に今年の冬は寒かったので、ちょっと首に巻くのに重宝したのです。かつては派手すぎると思いましたが、基本色が老婆色になった今は、差し色にちょうどよい。

後年、福岡の老人ホームに入ったと聞き、訪ねたことがありました。最近は辞書を読むのが面白くて、と話し、帰り際には卓上にあった菓子類をありったけ持たされました。もう亡くなりましたが、河口にある建物で、今なら大雨の度ごとに心配したと思います。