建築の多様性と公共性

わけあって、九州大学開学111周年記念式典をYouTubeで視聴しました。式典前には学生オーケストラの記念演奏、司会はやはり学生の放送部員、すっきりした儀式でした。総長は72歳だそうですが矍鑠たるもの、かすかに九州なまりのあるのが懐かしく、卓越だの社会実装だの、学部新設の話など、久々に大学生き残り作戦談に耳を傾けました。今や国立大学も、ステイクホルダーの確保が切実らしい。

その後、人間環境学研究院教授重松象平さんの記念講演「建築の多様性と公共性」(米国からのリモート)を聴きました。重松さんは1973年生まれ、九大工学部卒業後、1975年創業のオランダの建築事務所OMAに所属しながら欧米、中国、日本など各国で活躍しているとのこと。中国では中央電視台(国営TV局)、日本では虎ノ門ヒルズステーションセンターや福岡市の中心部にある天神ビジネスセンターなどを手がけたそうです。

さすがコンペに勝ち抜いてきただけあって、資料画像も話もよくまとまっていました。じつは有名建築家というものには根強い不信感を懐いてきた(高校時代、有名建築家が設計した八ヶ岳山麓の寮は軒から雪が吹き込み、鞘堂を造った)のですが、この講演を聴いて、現実を無視した自己顕示ばかりではないということがよく分かりました。

まず経済が低下する時期は、企画や発明が増えるという動向が見られ、建築に関する言説が多くなる(理念が深められる)と切り出し、例えば、どうしても閉じ籠もり型になりがちな美術館や宗教施設を「ひらいて」いく設計、防水治水用建築物も植栽を活かして防波堤には見えないような公園風のデザインにするとか、珊瑚礁の再生に使うテトラポットそのものをアート作品にしておくなど、豊かなアイディア満載でした。

この聴講は儲けもの。九大はいい教育をしている―ステイクホルダー獲得は成功かな。