ナンバーカード

随分前のことですが、ある金融機関の社員が顧客名簿を売り渡し、騒ぎになりました。私もその中に入っていて、住所氏名、電話番号、年齢、職業、年収までもが流出してしまいました。さらに驚いたことに、社長が記者会見で、買い戻す気はあるかと訊かれ、頷いて肯定してしまったのです。顧客名簿はコピーされれば完全に回収することはできません。捜査の囮として言うならともかく、大手銀行グループが買い戻すと言えば、資金は無限にあると見られ、付加価値をつけたことになる。

当時、そのグループの信託銀行とやりとりしていたので、担当者に抗議しました。法的措置も辞さないと言うべきだ、あの社長をメディアに出すな、と。担当者も、これだけの情報が出てしまっては丸裸になったようなものだ、と言い、社長が前面に出ることはなくなりました。しかしその後10年近く、私は怪しげな電話に悩まされ続けたのです。

マイナンバーカードを登録せい、と政府がうるさく勧めます。セキュリティは大丈夫、と。しかし市場価値のある個人情報が流出する時はたいてい、内部の犯行です。非正規公務員や民間委託が増え、上部が責任を取らない構造が蔓延しつつある現在の行政に、最も重要な個人情報を任せる気にはなれません。情報はいちど流出してしまったら取り戻すことができない。それにいまの政府のやり方を見ていると、当初は限定的に言いながら、次第に権力の都合に合わせて制度を拡大してくる。一旦登録してしまえば逃げ出すことはできないでしょう。

すでに国民の49%まで登録済みだそうで、以後の世代は警戒心がなくなるのならそれでいい。老人は、無くしやすい小さなカード1枚に、すべての個人情報を詰め込み、管理されるのは御免です。重要なことは何度も手間をかけ、幾つもの関を置くのが鉄則。