最後の晩餐

かつて、北の海で外国に拿捕された漁船の乗組員を引き取ってくる海上保安庁の船で最初に出される食事は、カレーライスだという話がありました。餅でも味噌汁でもない。日本人がああ故国へ戻ってきた、と実感する味はカレーライスだというのです。

我が家では、外出できない日が続いた時のために、若干の保存食を買い置きしてあるのですが、カップラーメンもその一つです。しかし最近は、昼を喫茶程度の軽食にしたので、ふと気がつくと賞味期限が過ぎていました。夕食には軽すぎ、おやつには重すぎる。やむなく朝食に、メールチェックをしながら啜ることにしました。

久しぶりの、この濃厚なスープ・・・20年前、父が死の床にあった時、何か食べたい物があるかと訊いたら、カップラーメン、と言ったことがありました。私が地方勤務の間は一人暮らしだったので、味を覚えたとみえます。病室でこっそりカップラーメンを作ろうとお湯を探しましたが、病棟ではスープが溶けるほどの熱湯は手に入りません。とうとう飲ませることができませんでした。

咽頭部のリンパ腺が腫れ、嚥下が難しくなっていたのですが、前年の夏にはカマンベールチーズ、秋には岐阜から送られたすやの栗きんとんを、感に堪えたように、美味しい!と言いました。冬にはもう液体しか喉を通らなかったので、元旦にお屠蘇を小瓶に入れて持参し、綿棒で吸わせたらとても喜びました。帰ろうとしたら、偶々その日の当直が主治医で、ばったり出くわし、打ち明けると、構いません、何も綿棒でなくたって、と言われましたが、後で考えてみれば、もう好きなようにさせて上げなさいと言われていたのでした。看護師さんに熱湯を貰えばよかった、と今でも後悔しています。

今や国民食、いや世界食と言われるカップラーメン。あのスープの味は独特です。