合衆国便り・コロナ歳末篇

アメリカのボードイン大学で日本文学を教えているセリンジャーさんからメールが来ました。共感することが多く、本人の許可を得て転載します。

メイン州ではもう雪の季節になりましたが、日本では如何でしょうか。

今年も去年と同じく、コロナ禍の影響が大きかったです。身内の中には失業した親戚もいたし、オンライン授業で疲れ切った甥っ子や姪っ子を見て、とても辛かったです。私の子供はもう13歳、16歳なので、幸い勉強も日常生活でも自己管理ができますが、幼い子は大変だったと思います。また、ここ数年、若い人は将来への希望を失ってしまったような気がします。政治の混乱、地球温暖化、ソーシャル・メディアによる分極化などが続く中、若い人は未来予定図がたてられなくて、苦しいのだと思います。私は大学では、教え子の精神的な支えになることに努めました。

私の研究にも影響が出ました。私は3月に国際交流基金のグラントをもらいましたが、外国人は夏の間日本に入国させて貰えませんでした。9月になってから、日本政府はやっと学者のための特別枠の入国ビザを作ってくれましたが、こちらではもう秋学期が始まっていて研究休暇をとる手続きが間に合わなかったため、グラントを返さなければなりませんでした。世界中の人が病気や精神的不安で苦しんでいる最中、自分の研究の心配をしていることが恥ずかしい気もしますが、しかし不安定な世の中だからこそ、自分の仕事に忠実であることの大切さも感じます。

仕事の面では、研究者のコミュニティ作りの大切さをつくづく感じました。研究資料を探すためによく使っていたハーバード大学の図書館にも、去年は入れませんでした。だから、自分の研究を少し休みにして、他の人の研究の支えになろうと思いました。ここ2年はディスカッサント(討論者?)をよく引き受けました。ダートマス大学での日米学会、ヨーロッパアジア研究学会。日本に数年行けなかったため、自分の日本語能力の低下も感じました。また、今年はアメリカ日本文学会の基調座談会に選ばれ、とても嬉しかったです。学者として、やっと鳥瞰図を描く能力がついて来て、それが周りに認められたような気がします。自分の成長が眼に見えて来ました。

成長しているとは言え、研究をすることは、自分の不勉強を毎日知る営みですよね。日本に行って、色々な学者と話して、その壁を乗り越えたいと思いますが、ビザがどうなるかわかりません。日本に行けなくて研究が停滞している人の悩みが今日、日本の英字新聞にも載りました。日本に滞在している外国人研究者が協力の手を伸ばしてくれています。(ワイジャンティ・セリンジャー)】

https://www.japantimes.co.jp/community/2021/12/20/issues/scholars-academics-help-those-stuck-outside-japan-covid-pandemic-research/

雪を煉瓦のように固めて、家を造っている息子さんの写真が添えられていました。