快気祝

難病を克服した友人が、ようやく定期検診をやめてもいいことになったというので、我が家で2人だけの快気祝をしました。神経鞘腫という、10万人に1人か2人という病気の手術が成功、5年間の観察期間が終了したのです。この病気第一の専門家と言われる主治医から、もしまた何かあったらすぐいらっしゃい、と言われて辞去した、とのことでめでたしめでたし。

彼女は食道を摘出しているので、ゆっくり、消化のいいものをと、近所のバルで、スパニッシュオムレツを誂えました。直径20cmを超える、ずっしりしたオムレツです。テイクアウトできるかと聞きに行ったら、注文は2日前にと言うので、冷凍じゃなく出来たてが欲しいと思い、「遠くから来るお客に、最近の本郷名物はこれ、と言って自慢するんだから、美味しく作ってね」とプレッシャーをかけました。「がんばります!」との返事。じっさい、きのこがたっぷり入った、満腹感のあるオムレツで、熱々の出来たてでした。

客の手土産は、病院内のヒルトップのモンブラン。マスクを外して久しぶりに、しかしとりとめのないお喋りをしました。2年ぶりなので、たわいのない話の中にも、共通の知人や身内や有名人の訃報、老化の話が頻りに出ました。親の看取りにはどうしても悔いが残るものだということ、老人の心細さはなってみないと分からない、殊に子供からは分かりたくない気が働くので、対応が手遅れになりがちだということ。

年金生活がどんなものか、現職時代には想像もしなかったという話、今なら未だできる、ということがあるなら、そろそろ手をつけなくっちゃという話もしました。見送る後ろ姿の上に、十一夜の澄んだ月が懸かりました。モンブランも食べたし、今年の秋はまもなく終わります。