鳥取力

本屋で平井伸治さんの『鳥取力』(中公新書ラクレ)という本を見つけて、衝動買いしました。平井さんは自治省出身で、2007年から鳥取県知事を務め、最近全国知事会の会長になりました。小さな本ですが、地方政治が今後の日本に果たす役割、コロナ対策に何が不可欠か、そして私にとっての関心事―鳥取の変貌という3つの大きなテーマが取り上げられていて、読み応えがありました。

鳥取がコロナの蔓延防止に成功しているのは、過疎だからではない、先読みして必要な対策を講じたからだ、と力説しています。かつての教え子からの手紙に、県独自の方針があって、一度感染者が出ると対応が大変、とあったことと符合します。そしてここに挙がっている独自の対策なるものは、みな至極当然なこと(PCR検査を徹底する、国の方針を待たず県の実情に合わせて対策を立てる、余裕のある間に医療体制を整える等々)で、国や都はそれとは殆ど真逆の方針でやってきたことが分かります。

コロナのおかげで、私たちは中央の政治家たちと、現場密着の地方官僚たちとの違いを見せつけられました。実務官僚の育成方法においては未だ中央官庁も捨てたものではない(例えばp167)、中央から(天下りでなく)地方行政へ、その逆も含めて人事交流を頻繁にしたらいいと思いました。行政の活性化・地方創生、一挙両得では。

手つかずの自然こそ最大の資源だ、というのが35年前に鳥取へ赴任した際の印象でした。今やITを駆使し、都会の人材を呼び込んで、活きのいい、時代最先端の県政を矢継ぎ早に打ち出しているとのことですが、それも地元でふんばる人たちの底力に着火したからです。教え子たちが以前話していたことはその芽だったんだ、と思い当たることが多い。知事さん、足元からの提案や諫言をもっと書いた方が、リアリティがありますよ。