白鵬

白鵬が引退して間垣親方になりました。あのしなやかな巨体を、もう土俵上では見られないのだと思うと寂しい。殊に東北大震災の後の逸話の数々は、生国の違いを超えて、まさに現代の大横綱に相応しいと思います。あの当時、自分の日々に精一杯だった私たちに代わってNHKの応援ソング「花は咲く」と白鵬の活動(それに加えてささやかな復興特別税)がせめても被災地への贈り物、という気持ちでした。感謝しています。

親方になる条件に誓約書を書かせた、というのは異例です。不安な先例があったのでしょうが、むしろ国民栄誉賞を検討して欲しい。横綱の品格、という曖昧な基準が頻りに持ち出されますが、具体的に何なのか。かつて朝青龍問題の時(夜の街での行状は知りませんが)、声高に言い募る女性委員の、化粧と髪形の品格を問いたいと思ったことでした。

引退後のインタビュー(一夜で顔つきが変わった)で、白鵬は印象に残った取り組みとして朝青龍に勝った一番、稀勢の里に63勝で止められた一番を挙げました。後者の瞬間から、彼の頭には退き際という目標が出来たのではないでしょうか、現役の責任と次世代への義務と。以前、五輪まで横綱でいたいと語った時、私はいささか軽蔑したのですが、いま思えば、もし五輪で横綱土俵入りが必要になったら、と考えたのかもしれません。

彼が担ってきた重圧は公私共に莫大なものです。奇手を使ったり(反則ではない)、阿修羅のように雄叫びを揚げたり、確かに驚かされることもありましたが、それは厳重注意で済むこと。優勝後、観客に万歳三唱や三本締めを勧めるという前例のない行動もありましたが、ではあれは、誰がやったのならよかったのか。伝統芸能の歌舞伎ならあり得ることだし、今どきの興行芸なら観客との一体感は大事です。男は一生に三度白い歯、なんて美学を指導しましたか?旧い関係者たちの方にも問題があるのでは。