風の電話

人から勧められて、『風の電話―大震災から6年、風の電話を通して見えること―』(風間書房 2017)を読みました。東北大震災の後、死者への思いを語りかけるための、電話線の繋がっていない電話ボックスを造り、その後も宮沢賢治の思想をよりどころに活動を続けている、佐々木格さんの自叙伝です。

17歳から一家を支え、釜石製鉄所に勤めて関連事業に出向し、早期退職して広大な庭園造りに没頭していた佐々木さんは、親しかった従兄が癌で亡くなったのをきっかけに、死者と対話する電話を構想し始め、オブジェにする心算で貰って来てあった電話ボックスを、東北大震災の後、庭園内に設置し公開したのだそうです。その後この「風の電話」(登録商標です)は全国的に有名になり、歌曲や映画の題材にもなりました。

人には、何年かごとの周期で人生をリニューアルしていくタイプがありますが、佐々木さんは17年前後の単位で自分の生活に区切りをつけ、飛躍を試みては成功していくタイプのようです。少年時代、鉄工所の溶鉱炉前での勤務、水産加工場の立ち上げと黒字化、そして庭園造りと地域復興―どれも楽ではないけれど楽しくやってきた、絵を描くことや詩作、工芸品作りや造園などと同じように。本書にはそう語る著者の活力が溢れています。同時に改めて、東北における宮沢賢治の影響力の大きさを痛感しました。

死者との通信には風のイメージがある。有名になった「千の風」、緒形拳の遺作となったTVドラマ「風のガーデン」、そう言えば西条八十訳詞の「誰が風を見たでしょう」という童謡があったっけ、と調べてみて、作詞者のクリスティーナ・ロセッティは信仰の篤い人だった、風と聖霊は聖書では結びついている、と知りました。

佐々木さんは自分もあの電話ボックスで、懐かしい従兄と対話をしたのでしょうか。