阿波国便り・母恋篇

徳島の原水さんから、季節の便りが来ました。夏らしい、野生の鬼百合、お歯黒蜻蛉などの写真が郷愁を誘います。

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野生の鬼百合

鬼百合は、なるほど精力溢れる夏草の繁みの中で咲くのが似合う。そしてクロアゲハか、オハグロトンボが似合います。

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ハグロトンボ

紗のような羽が魅惑的で、蜻蛉のくせにひらひらと蝶のような飛び方をします。私は歯を染める「お歯黒」から命名されたのだと思っていたのですが、「羽黒」が語源とする説もあるようです。環境に敏感な蜻蛉だそうで、東京では見かけなくなりました。思春期の頃、歩きながらふと、自分の眼にオハグロトンボが染みこむような幻覚を感じたことがありました。芥川龍之介の『歯車』などを読みふけっていた時期のことです。

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スダチの実

【このあたりはすだちの産地で、至る所に畑があり、花の季節には良い香りが漂います。「みかんの花咲く丘」が思い浮かび、「母さんと一緒に眺めたあの島よ」のフレイズから、母の思い出へと繋がっていきます(原水民樹)】

徳島はスダチが名物。青くて堅いまま、2つに割って絞ると、ぱあっと起ち上がる香りは抜群です。柑橘類の花は甘い芳香が特徴、スダチもそうなんですね。川田正子の歌った「みかんの花咲く丘」は、優等生的な唱歌だと思っていましたが、ある時、歌詞の一節に「やさしい母さん 思われる」とあるのに気づき、母親と死別か生き別れをした(戦後すぐは、よくあることだった)女の子なんだ、と動揺したことを思い出します。今でもイントロを口ずさむことができるほど、昭和20年代には普及していた歌でした。