在外日本学関係資料

辻英子編著『在外日本学関係資料の調査研究ー研究編・影印編』(汲古書院)という本が出ました。1000頁近い大冊です。「研究編」はⅠイギリス Ⅱオーストリア Ⅲドイツ Ⅳスペイン Ⅴチェコ Ⅵロシア Ⅶ日本 の7部構成になっていて、14人・25点の論考が収載されています。中でも日本文学に関するスペインとロシアの日本学研究事情の報告は、これまでなかったそうで、貴重な試みです。影印編にはチェコの長谷川雪旦模写「円山応挙筆の七難七福図巻」(個人蔵。中巻のみ現存)、ロシアのエルミタージュ美術館蔵『放屁合戦図巻』、日本の聖徳大学蔵『ちやうりやう』絵巻・『鉢木』絵巻の影印と解説が収められています。

辻さんは1980年代半ば以来、アメリカを始め在外日本の絵巻・絵物語の収集と研究を、使命感を以て続けてきました。そして海外の日本学研究者たちとの交流、その成果を発信することの必要性を感じ、すでに何冊もの論集や影印を出し、2014年には日本学賞を受賞、本書はその副賞によって出されたとのこと、私よりも7歳も年長なのですが、そのタフネスには感服するのみです。本書の企画・編集に当たっても、研究者との連絡・調整はもとより、翻訳もなさったようで、まさしく国際人としての活躍ぶり。

私が最も興味を惹かれたのは、石川透さんが「浅井了意筆『咸陽宮』絵巻について」と題して、さまざまな説話を集めて作られた『咸陽宮』、『楊貴妃物語』、『大黒舞』、『蓬莱山』、『武家繁昌』等は、浅井了意が本文を作って清書した作品ではないか、という仮説を出したことでした。するとこれらの絵巻は、仮名草子の一種ということになります。

ロシアの日本説話研究の概要(ディアナ・キクナゼ)やシモノフの日本陶器蒐集(エカテリーナ・シモノヴァ・グシェンコ)についても興味深く読みました。