緩和ケア医から

奥野滋子さんの『緩和ケア医から、ひとりで死ぬのだって大丈夫』(朝日文庫)という本が出ました。2014年に出た単行本に加筆し、改題して文庫化したものです。奥野さんは麻酔科医でしたが、在宅療養の重要性を知り、死生学・宗教学を学ぶために大学院で学位を取得。現在は神奈川県内で地域医療、在宅緩和ケアに奔走しています。

本書は、1いのちの限界、医療の限界を知ろう 2がんは本当に「不幸な」病気なの? 3緩和ケアで「痛み」をとる 4心へのはたらきがけが命を救う 5在宅医療チームに支えられて自宅で旅立つ 6家族が「すべきこと」と「してはならないこと」 7その人らしさを支えるケア 8悲嘆の中にある人たちのサポート という構成になっており、巻末に「この本で伝えたいこと20」「病と死に向き合うための書籍」という項目が立てられています。

本書が指摘するように、病院は(従来の医師は)、病と闘って生き残るために全力を尽くす、というモラルで貫かれています。そのため、治らないと判った病人への対応ができないか、不誠実になりがちで、死に瀕する病人やその家族には、そのことがさらなる重荷としてのしかかる場合がありました。本書はそういう隘路から脱け出し、どういう体勢で死に至る病に臨めばよいかを、分かりやすく説きます。

家族や周囲の心得も説かれているので、書名の『ひとりで・・・』は必ずしも相応していないのではないでしょうか。また、身近なコメントから緩和ケアのかなり高度な用語までが縦横に述べられているので、簡単な索引をつけた方がよかったのでは(「この本で伝えたいこと20」がありますが、項目の配列順が読者にとっては分かりにくい)。編集者の知恵と工夫が欲しかったところ。