癒やしとしての音楽

光平有希さんの『「いやし」としての音楽ー江戸期・明治期の日本音楽療法思想史ー』(臨川書店 日文研叢書 2018)を読みました。音楽療法という医療の一環については、私は十数年前に知ったばかりです。精神医学やその応用(ストレスにより発症する病気の対症療法)として音楽が利用されることはうすうす知っていましたが、学問として音楽療法史という分野があることを理解したのは、2009年春のことでした。

この分野を日本でも学問として確立し、実践にも役立つように仕向けていく1人として、光平さんはフロンティアの列に属しているのではないでしょうか。音楽療法が戦後、西洋からの輸入で始まったのではなく、東洋の思想に基づく日本古来の芸能・養生観があって、その上に築かれてきたことを力説しています。

本書は、序論 1江戸期日本養生論にみられる予防医学としての音楽 2明治前期における音楽療法の黎明 3明治後期における音楽療法の展開 結論 という構成になっており、序論には研究史が粗描され、巻末には参考文献とは別に、江戸期に刊行された養生書、明治期に刊行された養生書・衛生書、明治後期の新聞雑誌などに見られる音楽効能説及び音楽療法論の3つのリストが付載されていて、便利です。1は貝原益軒の養生論、2は神津仙三郎著『音楽利害』、3は呉秀三による実践を中心に取り上げており、それらと西洋の場合との比較や、酒井勝軍やこしのみねの例についても検討しています。

本書はハードカバー、全284頁、すでに再版されたようですが、学位請求論文として力が入っているせいもあってか、文章は必ずしも読みやすくない。今後、内容の水準を落とさずに、平易な文章で記述することに習熟して欲しいというのが、門外の私の希望です。この分野は今後、幅広い対象に向けて提供される必要があるからです。