シンガーソングライター

先日、夕食時にぼんやりTVを見ていたら、シンガーソングライターの小椋佳が、「愛燦燦」を歌っていました。今年一杯で引退、と宣言したのだそうです。

昨年末、出口典雄の訃報と共に、30代で亡くなった親友の思い出を本ブログに書きましたが、小椋佳は、彼女がマークしていた歌手でした。同い年で、同じ銀行に勤め、しかもしばらく、サラリーマンと歌手の2足の草鞋を履き続けていたからです。就職後も演劇の道に進みたかった彼女には、ひそかな目標でもあったのかもしれません。

私の方は、いい歌を作るなとは思いましたが、1970年代の前後は、日本の歌謡界にはもっと衝撃のある、いい歌を作る人、歌う人が続出していたので、さほど注目はしていませんでした。殊にそれまで、オトコに捨てられて、または慕い続けてめそめそするヒロインが多かったのに、「2時間待ってた」後、西でも東でも発っていく、あるいは「私は泣かない」と言い切って夜空に飛び立つ女性たちの歌が、私には胸に刺さりました。

彼女が亡くなって40年経ち、いつしか小椋佳の名前も殆ど忘れていたのですが、淡々と、口ずさむように歌われた「愛燦燦」に、ふと歳月を振り返る気になりました。美空ひばりなら、この歌はもっとメリハリをつけて歌ったでしょう。詞には「人生」「恨む」など、重い意味の語が多いけれど、こうして呟くように歌うのもまた、本来のモチーフに添った歌唱法かもしれません。

彼女は高校では就職組の1番で、卒業式の答辞を読みました。背も高かったし、演劇部だけでなく、多くの同期生の記憶に残っていました。もっと長生きしたら、とよく思いました。でも、いまこの小椋佳の歌唱を聞きながら、不意に彼女の老後が見えたような気もしたのです。