黄砂

この頃、晴れた日には目がごろごろすることがよくあります。黄砂の季節なのでしょうか。遠く中国大陸から飛んでくる、微少な砂の粒子。俳句の季語にもあるようです。

鳥取でアパート暮らしをしていた時、季節によって拭き掃除で雑巾につく埃の色が違うことに気づきました。真冬に綿埃(着ている物や夜具から出る)が多いのは東京でも同じですが、鳥取では春先には灰色、春以降は黄色い埃が床に溜まる。春先に雪が消え始めると、舗装道路の表面を、未だ外していないスノータイヤが削って、その粉塵が舞い上がるのです。積雪前にはあった横断歩道が、春にはなくなっていることがよくありました(白いペンキが削られたからですが、地元の人はちゃんと、見えない横断歩道を覚えていて、所定の場所で横断していました)。

赴任した時、海岸の砂の色が黄色いのに吃驚しました。鳥取砂丘も黄色です。私は湘南育ちなので、浜辺の砂は砂鉄をたっぷり含んでいて、灰色なのが当たり前だと思っていました。後で知ったのは、鳥取砂丘は、大陸から来た黄砂が千代川の河口に堆積してできたのだという説明でした。もう一つ、水平線がずっと真っ直ぐで、何もない(湘南には烏帽子岩江ノ島がある)のも不思議な感じで、この海の向こうは広大な中国大陸なんだ、との感慨にとらわれました。

中国の大河は黄河揚子江も、水が青くない。砂も黄色いのでしょうか。春霞と言えば風流ですが、黄砂で曇る空は憂鬱です。春休みに鳥取から羽田へ、日本列島を縦断すると、アルプスの頂が霞から覗いて、水墨画のよう。古人は飛行機に乗ったこともないのにどうして描けたのだろう、と思いましたが、羽田の上空は真っ黒で、東京人はあの下で暮らしているのか、と愕然としたものでした。